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Ⅳ 乳がん患者の心理社会的特徴

2 妊孕性温存に関する意思決定に伴う心理的変化

乳がん患者の妊孕性温存に関する意思決定に伴う心理的変化について、妊孕性温存を試みた乳がん患者4名(診断時35歳〜40歳)の研究結果から示された図を参考として紹介します20)。

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図10 妊孕性温存の意思決定過程における存在了解の変化と感情の揺れ
(文献20)より引用)

2 妊孕性温存に関する意思決定に伴う心理的変化02 この研究では、自らの遺伝子を受け継ぐ子どもを産み育てる生き方ができる可能性を【産む性】と定義づけています。乳がん患者は妊孕性温存に関する意思決定過程において自分の意思に関わらず産む性に向き合わざるをえなくなり、産む性を有する自己をその都度再解釈し、存在していました。受精卵凍結保存までの乳がん患者の産む性に対する『存在了解』は、産む性を閉ざす、産む性に覚醒する、産む性の保持にかけると、短期間で大きく変化し、その変化には絶望、ショック、悲しみ、高揚感、期待、不安、葛藤など感情の大きな揺れを伴うことが大きな特徴であると示されています。産む性を閉ざすことに伴う感情の揺れは、がんに対する脅威や、子どもを産み育てる生き方に対する思い入れが強いほどその喪失感も深く絶望感や落胆が大きくなると考えられます。妊孕性温存の情報は、がん治癒後の生を前提とした話であるため、産む性を閉ざしている時の落ち込みが、深く長びいている場合は、より希望や救いととらえられ、乳がん患者の気分をより高揚させていました。
 
その後、生殖医療医のもとで妊孕性温存に伴う現実的な問題や限界を知ることで乳がん患者はその選択に悩み葛藤していました。このように受精卵保存までの存在了解に伴う感情の揺れは、乳がん患者がおかれた状況や提供される情報の性質により図のように引き起こされるのは、自然なことであると示されています。
看護師は、存在了解の変化に伴う感情の大きな揺れを慮り、生殖医療に何を求めているのかその期待や希望を理解し、寄り添う姿勢がまず求められます。