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Ⅲ 妊孕性温存の方法

2 女性に対する妊孕性温存療法

以下の表1に代表的な妊孕性温存療法をまとめました。

表1 女性に対する妊孕性温存療法(文献10)pp136-204をもとに作成)

2 女性に対する妊孕性温存療法01

1.胚(受精卵)凍結保存・未受精卵凍結保存

1) 方法

●胚(受精卵)凍結保存:卵子を体外に取り出し体外で精子と卵子を受精させ受精卵を凍結保存します(図6)。
●安全性・有効性がほぼ確立しており、パートナーがいる方の妊孕性温存療法の第1選択となり得ます。
●日本産婦人科学会会告により、夫婦が離婚した場合や死別した場合には受精卵の使用が不可能となります。受精卵の保存にはパートナーの協力が必要になるため、パートナーの意向も確認する必要があります。
●治療開始までの短期間の中で将来の妊娠の可能性をなるべく残すために、一度に多くの受精卵や卵子を保存することを考えると、複数の卵子を育て採卵し、凍結できるようにする必要があります。そのために、排卵誘発剤を用いることを卵巣刺激と言います。
●卵巣刺激の方法は、排卵誘発剤をおおよそ1~2週間投与するのが一般的で、多くの場合は筋肉注射で投与します。(患者さんは毎日痛みを伴いながら排卵誘発の注射を受けます)
●しかし、乳がんの一部はホルモン依存性であるため、エストロゲン、プロゲステロンの上昇が、その発症リスクを上昇させてしまいます。そのため、排卵誘発剤の使用に関しては、生殖医療医とがん治療医が連携しながら、個人に沿った卵巣刺激方法を考慮する必要があります。

2) ケアの視点

●卵子を体外に取り出す採卵は、腟から細い針を穿刺するため、疼痛や出血、感染のリスクを伴います。施設にもよりますが、局所麻酔や静脈麻酔を使用し疼痛コントロールを行い、苦痛の軽減を図っています。採卵は短時間で済むため、外来で施行できます。
●卵巣刺激を行い、卵胞を育てることはできても、採卵前に排卵してしまい採卵できないこともあります。

2.未受精卵(卵子)凍結保存

●パートナーが不在の場合は未受精卵(卵子)凍結が選択肢となります。(図6)
●これまで卵子凍結は技術的に難しく、その治療成績も胚(受精卵)凍結と比べて安全性が十分なものではなかったため実験的な方法としての位置付けでした。
しかし、治療成績が改善してきたためASCO(米国腫瘍学会)の改訂版ガイドラインでは、パートナーのいない女性の妊孕性温存方法として勧めるべきであるとしています15)

動画を見る>>

図6 受精卵、未受精卵凍結のながれ
(図案、写真提供:虎の門病院産婦人科)

2 女性に対する妊孕性温存療法04

3.卵巣組織凍結保存

●卵巣組織凍結保存は、卵巣組織を凍結保存する方法であり、初経発来前の患者やがん治療を遅らせることができない患者において有効であるとされています。
一方で、がん治療終了後に卵巣組織を移植することで、がん細胞を再移入するリスクが危惧されています。現在では、治療の有効性や安全性がまだ確立していないことから研究段階とされ、実施施設も限られています。