事例 2
事例を通して
妊孕性温存を希望する若年がん患者とその家族は,がんの告知という生命に関わる極めて深刻な宣告を受けた上に,十分な生殖医療の情報を得られない,あるいは告知直後で衝撃の段階にあり,情報の認識が不十分な状態で,がん治療開始までの短い期間に意思決定を迫られます.また,がん患者に対する生殖医療と一般の不妊患者に対する生殖医療との違いとして,原疾患の治療が最優先となる点から,限られた時間内での生殖医療となります.さらに,がん患者は常に原疾患の再発・再燃の恐怖というリスクを負っており,心理的負担が大きく,患者を中心として,生殖看護・がん看護・家族看護・心理支援の視点からシステムの構築も今後必要です.看護師はそばで寄り添うことも大切ですが,まずは患者・家族の不安な事,心配な事,辛いこと事,希望する事を理解し,質の高い正確な情報提供と意思決定支援,相談できる環境を充実させていく必要があります.がん治療ではがん患者が対象者ですが,がんと生殖医療では本人や家族が対象者となることに意識を持つことも大切です.妊孕性温存という問題に,どのようなあり方を望むかは患者とその家族によっても様々であり,こうすればよい,という正解があるわけではありません.そのため,まず不安を抱えている患者や家族の思いの傾聴や受け入れ共感します。また気持の整理を見極めたうえで、必要な情報を提供し患者や家族自身が答えをみつけ,自己決定につなげられるプロセスをサポートします.そして自己決定した後にはその選択を支持し,苦労を労います。患者が自己決定できたことで,いかなる選択であれ,患者と家族の将来への希望をつなげることになり,今後のがん治療を支えることにもなると考えます。
(ファティリティナース)
(ファティリティナース)
Columm
若年のがん患者さんは,がんの診断に伴い,二つの局面から人生の危機に直面すると考えられます.ひとつは,生命に関わる危機です.なぜなら,がんそのものが生命を脅かす疾患であるからです.がんの疑いに始まり,検査,診断,治療,再発の可能性などの悪い知らせに伴い,患者さんはそのつど大きな衝撃を受けることでしょう.
もうひとつは,生殖機能の喪失や障害といった生殖に関わる危機です.生殖は,新しい命を生みだすという生物学的な機能のみならず,男性・女性として役割や,愛情,喜び,幸せ,希望,愛情など,人が生きるうえで大切にしていきたい様々なこと・ものを包含しています.これらをがん治療の影響で喪うかもしれないときの衝撃もまた,深刻であると思われます.
このような人生の危機に直面している若年がん患者が,危機を回避して,あるいは危機から速やかに回復して,命を大切にしつつ,将来の生殖についての価値を吟味してQOLを追求できるよう支援したいものです.
支援では,アグィレラの危機問題解決モデル,フィンクの危機モデル,家族危機モデルなどを指針に用いた危機看護介入が役立ちそうです.