アセスメント
Bさんへの情報提供に関して,初診時に様々な説明を行いましたが,後日医師より再度説明が必要な場面がありました.がんの告知と共に,体外受精に関する多くの情報を一度に伝えることは,動揺している患者や家族の理解を得るには,効果的な方法ではないことが分かります.患者や家族が求める情報を,タイミングも考慮したうえで説明することができれば良いですが,がん治療前という限られた時間の中では困難です.そのため,後からゆっくり見直すことのできるパンフレットの活用も必要だと考えます.また,様々な不安や気持ちを誰かに話し言葉で表出することで,自分の気持ちを整理でき自己決定につながります.このように、いつでも相談できる場の提供が必要です。
①Bさんの 心理状態
Bさんの「手術を受け昨日退院したばかりで体外受精まで考えられない.乳がんの再発も怖いです」「胚の凍結ができたとしても,ホルモン治療が終了する年齢を考えると,妊娠出産し,子どもが成人するまで育てあげられるか不安」との言葉から,がんと診断され間もなく,Bさんはがんに対する不安や死の恐怖を実際に意識し,自分の体のこと,生きることを考えるだけで精一杯な状況であると考えられます.そのような心理状態にあるため,「がん治療は遅らせたくない」と話しているように,将来の妊娠や出産のための妊孕性温存に対する優先順位が低くなることは当然です.また,「私が病気になってしまったことで,こんなにパートナーも悩んでいる.その責任が私にはあると思っています」という本人の言動より自責の念が強く感じられました.
②パートナーの心理状態
パートナーも,Bさんと同じようにがんという衝撃を受け,限られた時間の中で情報収集や判断を迫られ,混乱している様子が窺えます.パートナーの「できるだけたくさん可能性を残しておきたい」との言葉や,一人で来院して医療者へ説明を求め,医療者が話す内容について熱心にメモを残していた様子から,妊孕性温存に対する望みや焦りも感じられます.また,代理懐胎についての発言があったように,たくさんの情報の中の適切な情報の判断ができていないため,さらなる混乱を招く恐れもあります.「今,自分たちが何を求め,何ができるのか」についての整理を支援する必要があります.
③看護の方向性
がん治療の当事者はBさんですが,妊孕性温存という視点ではBさんとパートナーの二人が当事者であり,パートナーの思いにも共感し尊重する必要があります.二人の立場の違いから妊孕性温存に対する思いや意見にずれが生じていることも伺えるため,お互いの気持ちを理解できるような場の提供も必要であると考えます.