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事例 1

看護介入

◎看護目標
Aさんが混乱に陥ることなく,乳がんの診断と治療による卵巣機能不全の可能性を受け止め,妊孕性温存について意思決定できる.

①がん診断による心理面への配慮

乳がんの診断から治療開始までのプロセスは,ほぼ外来診療の場で行われました.Aさんが,がんの診断,がん治療の目的およびがん治療による卵巣機能不全の可能性を理解することができるよう,意図的に受診の際の様子に気を配り,Aさんに声をかけ面談の機会をもちました.その際,Aさんの病気や治療への受け入れに気持ちに耳を傾けながら,Aさんに対して,自分たち医療者が病気や治療に関する疑問や不安の解消をサポートする立場であること,相談を受ける準備が医療者にあるというメッセージを折々に伝えました. 
 
Aさんはパートナーはいるが未婚であり,今回,がんと診断されたことにより関係性に揺らぎがでるのではと語っていました.また,「親に申し訳ない」と自分自身を否定する気持ちを抱いていました.治療による副作用や妊孕性が障害されるかもしれないと脅威を感じながら,他者との関係性の変化に困惑し,先の人生の見通しがたたない感覚に陥り,不安な思いにかられている可能性を念頭におき,Aさんが不安や悲しみの感情を素直に表出できる時間を持つように心がけました.また,このような不安な時期に妊孕性温存療法を選択するために取り組んでいるAさんの努力を労いました.
 
さらに,がんの診断から治療を決定する時期は,診断によるショックに苛まれる中で,治療法を検討しなければなりません.またこれからのがん治療,長い期間,がんと共生するためには,社会的サポートの強化も重要です。Aさんは初診診察の際に一人で来院しており,一人暮らしであるという背景も考慮し,診察への家族への同席を促し,患者会の紹介なども今後の検討事項としました.

② 妊孕性温存療法の理解に基づく選択の支援

通常,妊孕性温存のための生殖医療は,生殖医療を専門とする診療科で行われており, Aさんも同じ施設内のリプロダクション外来で診療を受けていました.生殖医療の専門診療科ではがんの薬物療法による再発リスクを低下させる効果と治療のスケジュール,現在の卵巣機能および妊孕性評価,予測される治療終了後の卵巣機能のアセスメントと,妊孕性温存療法の説明が行われました.その際,リプロダクション外来の看護師は,Aさんが不安や疑問を解消できるよう,わかりやすい言葉で情報を補足しました.また診療と生殖医療の診療科間でがん情報が共有されるようカルテに医師による説明の内容,Aさんの反応や妊孕性温存療法についての思い・考えを記載しました.がん診療科では,これらの情報を確認し,患者がどのようなプロセスを辿り治療に臨もうとしているか,温存療法はどの段階かを把握し,がん治療の開始が適切かどうか確認しました.