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事例 1

経過

①がんの診断まで

半年ほど前より左乳房にしこりを自覚していました.3か月前に左乳房のしこりが大きくなったような感覚があったが痛みがなかったため,あまり気にとめませんでした.2か月前の職場の検診にて,左乳がんの疑いがあるため乳腺外科のある病院への受診を勧められ,1か月前に乳腺外科に初診となりAさんは一人で受診しました。乳房エコー,マンモグラフィの結果,左乳房に5㎝大の不整形腫瘤と腋窩リンパ節の腫大が認められ,腫瘤の針生検と腋窩リンパ節の細胞診が行われました.医師より乳がんの可能性が高いことが説明されました.病理診断の結果,左乳がんと腋窩リンパ節転移の確定診断がつきました.1週間後の診察時に,Aさんは両親とともに乳がんと告知されました.

②がんの診断から妊孕性温存と療法決定まで

医師より,Aさんの乳がんの病期はⅡ期であること,腫瘍の大きさリンパ節の転移を考えると,化学療法などの薬物療法と手術療法を併用する治療が勧められること,手術前の化学療法は腫瘍を縮小させて乳房温存の可能性を高めるため,また全身への微小転移を抑えるために効果的であることが説明されました.また具体的な治療方法として,術前化学療法としてAC(アドリアシン+シクロホスファミド)療法4クールおよびパクリタキセル療法を12クール行い,その後,乳房温存手術を受けた後,術後ホルモン治療を5年間行うことが提示されました.その上で,医師より,化学療法による卵巣機能不全が起こる可能性があること,またその後のホルモン治療中の妊娠を避けたほうがよいこと,乳がんの治療が終えた場合,自然に月経が再開したとしても,その場合のAさんの年齢を考慮すると自然に妊娠,出産ができるかどうかは難しいかもしれないことが説明されました.また化学療法を開始する前に妊孕性温存の治療を受けるかどうかはAさん自身の希望によるため,化学療法をなるべく早めに始めたほうがよいことから,次週までにどうするか決めるようすすめられました.
 
上記の診察後,乳腺外科の看護師との面談時にAさんは呆然とした様子でした.「まさか自分ががんになるなんて思ってもいなかったので,ショックですね.将来結婚したら,いつか自然に子どもを授かればいいなと思っていました.がんになって化学療法とかホルモン治療で子どもがもてないかもしれないという話を聞いたけれど,想像がつきません.少し考えてみます.」
 
その後,Aさんより挙児希望がありAさんはリプロダクション外来を受診しました.リプロダクション外来の医師より,化学療法とホルモン療法による卵巣機能への影響について説明され,乳がんの治療後月経が再開しても必ずしも妊娠するわけではないことを話されました.
 
化学療法前の妊孕性温存療法として,未受精卵子凍結保存,卵巣組織凍結保存を提示され,メリットとデメリット,各治療のスケジュール,料金について説明されました.Aさんは「まずは今,どんな治療ができるのかきちんと話を聞いておきたいと思って.乳がんになって子どもを持つこともできなくなるのかと落ち込んでいたけれど,未受精卵子凍結の話を聞いて,将来の希望が持てました.がんの治療に前向きに取り組んでいこうと思えるようになった.」と未受精卵子凍結を行いたいという意向でした.月経自然周期に合わせた卵子採取ののち,未授精卵子凍結を行い,術前化学療法を行うことになりました.