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女性の晩婚化に伴い初産年齢も高くなり,日本人女性の平均初産年齢は30歳を超えています.日本人女性のがん罹患全体では乳がんは第一位であり,2014年の罹患者数は年間76,000人と推定されます1).年齢別にみた女性の乳がん罹患者は,30歳代から増加をはじめ,40歳代後半から50歳代にピークを迎え,40歳未満の女性は約4,000人です1).
 
40歳未満の乳がんは40歳以上に比較して診断時の病期が進んでおり,術前あるいは術後の化学療法施行の適応となることが多く、エストロゲン受容体(estrogen receptor:ER)陽性乳がんの場合には,ホルモン治療が術後の標準治療として位置づけられており、5年から10年間継続することになります23).
 
化学療法により,化学療法由来の卵巣機能不全(chemotherapy induced amenorrheaCIA)が引き起こされることが明らかになっており(表4)13),またホルモン治療中の妊娠は避ける必要があります. 治療開始前に治療終了後の自然妊娠の可能性を正確に予測することは困難ですが,40歳未満の乳がん女性が化学療法・ホルモン治療を受けることにより将来の妊娠の可能性をなくしてしまうことになります.女性にとっては,子どもを持ちたいと思う人生のタイミングで,がん治療により子どもを持てないという不可逆的な課題に直面し,ライフプランの変更を余儀なくされます.治療による妊孕性への影響はその後の人生のQOLに大きく影響します.

表4.乳がん化学療法による無月経率文献13) を基に作成

01 がんに携わる看護師は,がんの診断・治療と同時に,妊孕性喪失のリスクに直面します。女性がん患者が抱える課題に関心を持ち,支援する役割を担うことが求められています。がん罹患後に挙児を望む乳がん女性が,がん治療による妊孕性への影響を理解し,納得して妊孕性温存に関する意思決定プロセスをたどることができるよう,妊孕性の温存について知識を深め,適切な援助を行う必要があります.本項では,未婚の乳がん女性のケースを通して,乳がん治療における妊孕性温存に関する看護援助について考えていきます.